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Fは、現在副所長を務める高橋伸佳とニ人三脚で研究所を立ち上げることにした。高橋は、Jグループ会社「ジェイコム」の社員で、研究所のシンクタンク的存在として研究調査やコンサルを手がける。
「健康」に特化したこのような研究機関では、医学的な知識が求められるので、医師や有識者の協力は必要不可欠だ。
科学的根拠に基づく健康増進、いわゆるEBH。

年間二百四十件もの世界中からの緊急報告にホットラインを引いて対応していたFは、夜も眠れぬ忙しさだった。時差があるから二四時間体制にならざるを得ない。
夜中であろうと外出先であろうと、海外で発生した事件、事故の報告が飛び込んでくるのだ。これら報告を日々受けているうちに、旅行者自身が病気にならないよう、怪我をしないように、未然に防ぐための心構えや啓蒙も必要だと考えるようになり、単に旅を売るだけの時代ではないことを肌で感じはじめたのだ。
成長株の健康関連ビジネスを多方面で支えるヘルスツーリズムの重要性を語るFは、二十歳代、三十歳代にニューョークやロサンゼルスなど北米圏での研修や駐在を経験した。帰国後、首都圏を中心に旅行業の前線で働いたのち、危機管理室を任された。

しかし、このとき、危機管理に対するインフラ整備の遅れを痛感するFは、「ツーリズム産業界全体のお役に立ちたいと考えている」と語り、Jという一企業に限った活動ではないことを強調する。
「健康」というテーマは、厚生労働省の管轄であることに変わりはないが、経済産業省も「健康サービス産業」という概念ですでに取り組みを始めており、また、旅行業の主幹となる国土交通省も着目している。

この一大テーマは、今後、さらにボーダレスな拡がりをみせることだろう。
Hの概念を広く普及・啓蒙させるためのNPO法人「日本H振興機構」も、Fらの呼びかけにより発足した。
そこには、医師や製薬会社、自治体のほか、旅行会社や鉄道会社、航空会社の有志も垣根を越えて参画している。国土交通省国土交通政策研究所の「交通の健康学的影響に関する研究」を受託し、交通渋滞や混雑具合などが身体に及ぼすストレスなどを計測し、実証実験も行った。
こうした官公庁や地方自治体からの調査研究に関する受託事業も、「H研究所」の大きな仕事の一つである。


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